2020年1月21日
岩手県知事 達 増 拓 也 殿
岩手県立二戸病院の遺族からの要望書


第1 要望の趣旨

 岩手県は、令和元年12月11日の厚生労働省通知「画像診断報告書等の確認不足に対する医療安全対策の取組について」に基づき、全県立病院で次の2点を再発防止策として採用していただきたく要望いたします。御検討いただき、御回答いただきたくお願いいたします。
(1) 画像読影医が緊急度の高い所見を指摘した場合、報告書を検査依頼医が所属する診療科の責任者に送付するとともに、直接検査依頼医に電話し所見を伝える。
(2) 主治医など説明を担当する医師は、患者が希望しない場合を除き、原則として画像診断報告書を患者に渡し、その結果を丁寧にわかりやすく患者に説明し、その旨を診療録に記載する。

第2 要望の理由

1 事故の経過

 父(60歳代男性)は、健康診断で肺の陰影を指摘され、受診したクリニックで岩手県立二戸病院(以下「二戸病院」と言います)を紹介されました。
 父は、二戸病院の呼吸器内科の医師の指示で胸部CT画像検査を受けました。
 二戸病院の平成27年3月のCT検査の放射線科医作成の画像診断報告書には「腎細胞がんを疑います」「s/o left renal cell carcinoma」(※ 左腎細胞がん疑い)と記載されていました。
 肺の疾患を疑って3か月の間隔をおいて実施された同年6月、9月のCT検査の画像診断報告書には、「left renal cell carcinoma」(※ 左腎細胞がん)と明記されていました。
 しかし、呼吸器内科の医師は、放射線科医の作成した画像診断報告書を見ていませんでした。この事故は、呼吸器内科の医師が画像診断報告書を見ていれば容易に防止できた事故です。医師間で医療情報の共有がなされなかったことが事故の原因と思います。
 父は、平成28年8月にがんが脳に転移して脳出血で二戸病院に運ばれ救急の医師がカルテを見てはじめて父の腎細胞がんが発見されました。父は、平成29年1月に腎細胞がんで亡くなりました。

2 再発防止策

 病院長は、令和元年12月6日、謝罪文のなかで、「重大な医療事故」との認識を示し、「この度の医療事故は、院内における検査結果情報の共有の仕組みに問題があったことが大きい要因と考えております。このことを深く反省し、今後は、二度とこのような事故を起こさないよう再発防止しに努め、患者と県民の皆様の信頼回復に向けて、職員一丸に全力で取り組んでまいります。」と書いています。
岩手県医療局は、二戸病院の医療事故の原因について、「当該診療科の医師は、応援医師であるが、画像診断報告書の既読状況を確認する体制が構築できていなかった。」とホームページに書いています。再発防止策について、「画像診断報告システムに「既読」ボタンを設定するとともに、重要な所見が含まれている場合は、強調文字で表示するようシステムを改修した。」と書いています。

 たしかに、岩手県の医師は盛岡市周辺に集中していますので、応援医師による診療は或る程度一般的であり、応援医師の存在を意識して、画像診断報告書の確認不足による医療事故防止に取り組む姿勢は評価できます。
 ただ、これだけで本当に再発が防止されるのか、二戸病院以外の県立病院では画像診断報告書の確認は十分なのか、という疑問もあります。
厚生労働省が、令和元年12月11日に、通知「画像診断報告書等の確認不足に対する医療安全対策の取組について」を発したこともあり、組織的な伝達体制や確認体制を構築する観点から、上記のとおりもう一歩踏み込んだ具体的な再発防止策がとられるよう要望いたします。
画像読影医が緊急度の高い所見を指摘する場合は、さほど多くないはずです。画像読影医に、@報告書を検査依頼医が所属する診療科の科長など責任者に送付する、A直接検査依頼医に電話し所見を伝えるの2点を求めても大きな負担にはならないと思います。
医師が原則として画像診断報告書を患者に渡して説明することになれば、画像診断報告書を読まないで説明することはできませんから、説明する医師は必ず画像診断報告書を読むことになると思います。また、患者は、画像診断報告書をもらって丁寧な説明を受けることで、検査結果・病態をよく理解できます。画像診断書の確認不足による事故を防止するにとどまらず、患者参画のより良い医療を実現することにつながると思います。