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下級審医療判例real estate

大阪地判令5.1.24
私が原告ら代理人として担当した事件の判決です。

令和5年1月24日判決言渡
平成30年(ワ)第6307号 損害賠償請求事件

                  判   決

(略)
                  主  文

1 被告は、原告X2に対し、2547万0062円及びこれに対する平成29年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告X1に対し、2547万0062円及びこれに対する平成29年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを10分し、その9を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

(略)

第3 当裁判所の判断

1 認定事実

争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 被告クリニック入院に至る経緯
ア 原告X1は、不妊治療を経て、4月20日、被告クリニックにおいて妊娠の診断を受け(9週4日、初産婦、出産予定日11月19日)、その後、被告クリニックを継続受診した。外来診察は、いずれも被告クリニックのA副院長が担当した。
5月8日のカウンセリングの際に、原告X1は、無痛分娩を希望し、9月27日の受診時において、無痛分娩の方法によることが決定された。8月18日から10月12日まで子宮収縮抑制剤の投与が行われたほかは、特に問題となる事項はなかった。
(乙A1p10、乙A2p4,26,27、乙A23、原告X1)
イ 原告X1は、11月19日(妊娠40週0日)、午後0時10分頃、陣痛を訴えて被告クリニックを受診し、同日、被告クリニックに入院した。

(2) Cの分娩に至る経緯
ア 11月19日入院時の助産師による内診所見では、子宮口開大2cm、硬度は中、展退90%、児頭の位置はステーションは−3であり、破水はなかった。Y医師は、分娩監視装置を装着し、子宮口開大5cmくらいまでは経過観察を行い、その後分娩が進行すれば、ウテメリン(子宮収縮抑制剤)の点滴を行う方針とした。(乙A2p1,7、乙A23) 
同日午後7時45分頃、子宮口開大は約4cmとなり、同日午後8時過ぎ頃から、Y医師は、原告X1に対し、ウテメリンの点滴静脈注射を開始した(乙A2p7)。

イ 同月20日午前8時50分頃、Y医師は、原告X1を診察したところ、子宮口開大が約4cmで、陣痛周期が9〜10分であったことから、分娩誘発し、陣痛周期が2〜3分となった後に無痛分娩を開始する方針とし、同日午前9時30分頃から、アトニン(陣痛促進剤)の点滴を開始した。(乙A2p6、乙A23)

ウ 同日午後0時10分頃、陣痛周期が約2分となり、同日午後0時34分頃、Y医師は、無痛分娩目的で、原告X1に硬膜外カテーテルを留置した。同日午後0時40分の時点で、子宮口開大は約5cmであった。(乙A2p6,12、乙A23)
同日午後1時35分頃の時点で、児頭下降度は−3であった(乙A2p12)。
同日午後2時40分頃、Y医師が診察したところ、児頭下降度は−3であり、子宮口開大は約5〜8cmであった(乙A2p12)。
同日午後3時45分頃、子宮口は約8cm開大し、児頭は固定していたことから、Y医師は、人工破膜を行った。硬膜外麻酔が8ml/hに増量された。(乙A2p12、乙A23)
同日午後4時40分頃、子宮口開大は約9cmであった。また、児頭下降度はほぼ−2であった。硬膜外麻酔5ml/hが追加投与され、持続量が15ml/hに増量された。(乙A2p12)
同日午後6時30分頃、子宮口は全開大であった。また、同日午後6時35分頃に児頭の産瘤が+1の状態であり、午後6時45分頃より努責が開始された。(乙A2p12)

エ 同日午後7時30分頃、児頭の産瘤が+2の状態であった。また、原告X1の体温は37.4度であった。(A2p12)
同日午後7時20分頃から午後7時50分頃までの胎児心拍数陣痛図において、胎児心拍数波形は、基線は160〜165bpmとやや頻脈ではあるが、基線細変動と一過性頻脈が認められ、子宮収縮時に150〜140bpmの15〜40秒で回復する軽度変動一過性徐脈が散見された。また、10分間に5回よりも多い子宮収縮が認められた。(乙A13、鑑定書p3,4)

オ 同日午後7時40分頃、児頭の産瘤のみ先進し+2〜+3の状態となった。また、陣痛発作が短く、努責が有効にかからない状態であった。その頃、Z助産師がY医師に診察するよう連絡し、同日午後7時45分頃、Y医師は、訪室し、内診をした。内診時に恥骨結合の裏に内診指は入らず、膣口側から児髪が見えていたことから、Y医師は、厚い産瘤があったとしても児頭の下降度はステーション0〜+1あるいはそれよりも低い位置(+1〜+2)であると考えた。子宮収縮時に児頭が下がって来ないため、Y医師は、このままでは産瘤だけが大きくなり分娩は進行しないと予測し、産瘤がさらに大きくなると吸引カップのかかりが悪くなり、経膣分娩が不可能となると予想した。また、Y医師は、胎児機能不全の傾向があり、原告X1について、微弱陣痛及び腹圧不全の状態にあると考えた。そこで、Y医師は、吸引分娩を行うことを決定した。(乙A2p12、乙A3、23、被告代表者p5〜6)

カ 同日午後7時50分頃、ソフトカップで1回吸引をしたが、カップのかかりがよくなかった。そこで、ハードカップで5回の吸引を行い、併せてクリステレル圧出法(4回)を行った。
同日午後8時2分、Cが娩出された。
(甲A9、乙A2p12、乙A23、被告代表者p7)

(3) 出生後のCの被告クリニックにおける経過等
ア 出生時、Cは、体重3212g、身長49.0cm、頭囲32.0cmであった。また、出生時、Cの右頭頂部に産瘤を認めたが、外傷、頭血腫はいずれもなかった。アプガースコアは9点(1分)/9点(5分)であった。 10分後に全身色が良好となり、10点となった。(乙A3、4、23)
11月20日午後8時08分頃に胎盤娩出があり、原告X1に弛緩出血と子宮収縮不良があり、Y医師は、原告X1の止血処置や縫合を行い、同日午後8時45分頃に縫合が終了した。同日午後8時50分頃、原告X1は、Cと面会した。(乙A2p14、乙A23)

イ 同日午後10時2分頃、Cの体温は37.3度、呼吸数は62回/分、心拍数は150回であり、四肢末端にチアノーゼ及び冷感が認められた。血糖値は82mg/dlで正常であった。(A2p10、乙A23)

ウ 11月21日午前0時20分頃、Z助産師は、Cに顔面チアノーゼがあり、全身色不良で、筋緊張は弱く、うなり呼吸があることを認めた。剌激にて呼吸促すも、全身色は改善しなかった。(乙A2p18)
同日午前0時25分頃、CのSpO2は99〜100%で、呼吸数は47、心拍数は161であった。その頃、Z助産師は、Y医師に対し、上記SpO2、呼吸数、心拍数のほか、呼吸状態が多呼吸気味で努力呼吸様で元気がない旨を電話で報告したが、顔面チアノーゼ、全身色不良、うなり呼吸があることは、報告しなかった。
Y医師は、Cに出生後の新生児一過性多呼吸の疑いがあると判断し、Z助産師に対し、SpO2モニターの続行、保育器収容による経過観察及び必要なら酸素投与を行うように指示し、自身でCを診察することはなかった。(乙A2p18、乙A23)

エ 同日午前0時30分頃、Z助産師は、Cを保育器に収容し、以後、次のとおり、経過観察を行った。同時刻頃、Cの中心性チアノーゼは改善し、四肢冷感、チアノーゼ、口唇周りのチアノーゼは持続した。心雑音はなく、体温は36.5度であった。
同日午前0時40分頃、CのSpO2は99〜100%で、たまに90%台前半に低下するも自然に回復した。四肢冷感は持続し、筋緊張は弱かった。体温は36.2度、呼吸数は41、心拍数は143であった。
同日午前0時50分頃、Cのうなり呼吸は消失し、中心部の赤みが軽度あり、筋緊張は改善した。
同日午前1時15分頃、Cに時々うなり様呼吸があり、浅在性呼吸で、呼吸数が61であった。四肢冷感は消失し、全身色はやや貧血様、蒼白気味も、中心赤み軽度あり、SpO2が100%、筋緊張は変わらず、体温が36.2度であった。
(乙A2p18、乙A23)

オ 11月21日午前2時10分頃、Z助産師は、Cの全身蒼白が著明で、呼吸が弱く、SpO2が80〜70台に下降しているのを認めた。徐脈があり、筋緊張はなく、体温は36.7度であった。
同日午前2時15分頃、Z助産師は、Cにマスク&バッグによる酸素投与を開始し、Y医師に報告し、Y医師が来院した。
同日午前2時30分頃、CのSpO2は96%、全身色不良で、筋緊張はなく、対光反射は弱く、右頭頂部に腫脹波動がみられ、血腫様であった。
Y医師は、Cの状態が悪いため、新生児搬送を行うこととし、F病院に新生児搬送を依頼したが、受入れを拒否され、新生児診療相互援助システム(NMCS)により、Dセンターに新生児搬送を依頼した。
同日午前2時35分頃、マスク&バッグによる酸素投与を継続し、SpO2が100%であった。
同日午前2時40分頃、Cに対し、マスク&バッグによる酸素投与を継続し、SpO2が100%であったが、これを止めるとSpO2が低下する状態であった。全身蒼白は改善せず、徐脈があり、90〜100台であった。その頃、Dセンターから、搬送可との連絡があった。血糖値は52mg/dlであった。その頃、原告X1は、Cと面会した。
同日午前3時頃、Cに対し、マスク&バッグによる酸素投与を継続したが、状態は変わらなかった。Dセンターより、Cの搬送先がE病院に決定したとの連絡があった。全身色不良で、筋緊張はなく、脈拍は95〜100で、呼吸数は47であった。
同日午前3時10分頃、マスク&バッグを止めると、SpO2は90%半ば、徐脈80〜90台であり、マスク&バッグ続行にてSpO2は100%、脈拍は100台であった。
(甲A10、乙A2p18、乙A23、被告代表者p10)

カ 同日午前3時20分頃、Dセンターの応援医師である小児科医が被告クリニックに到着した。
同日午前3時25分頃、気管内挿管が行われた。SpO2は80%台〜80%台後半で、なかなか上昇がみられなかった。酸素投与続行にてSpO2は100%であった。
同日午前3時30分頃、気管内挿管を行うも、末梢血管を確保できなかった。徐脈80〜90台で、SpO2が80%台から90%台をふらつく状態であった。全身蒼白は変わらず、右頭頂から左頭頂にかけて血腫様、波動著明であった。
同日午前3時40分頃、Cは、保育器に収容され、原告X2付添いのもと、E病院へ向けて出発した。
(乙A2p19、乙A23)

(4) E病院での診療経過等
11月21日午前4時頃、Cは、NICU(新生児集中治療室)のあるE病院に到着した。NICU到着時、Cの心拍は80回/分で、SpO2モニターは、搬送中より末梢循環不全のため測定することができなかった。末梢冷感があり、体温は35.2度、全身性チアノーゼがあり、血圧はマンシェットで測定できなかった。診察では、対光反射なく、体動なく、筋緊張低下がみられた。後頭部全面に波動触れる血腫が認められた。Cは、帽状腱膜下血腫、低拍出性ショック、高カリウム血症(電解質異常)と診断され、同日午前5時頃、原告X2に対し、Cの病状説明がされ、救命困難である旨、また、救命できたとしても重度の後遺症を残す旨の説明がされた。その後、一時的に心収縮改善するも再び徐脈、収縮不良となり、心拍、血圧が徐々に低下した。
同日午前5時32分頃、心拍が徐々に徐脈傾向にあり、心拍60回/分、SpO2が70%前後であり、治療への効果が乏しかった。再度、原告X2に対する説明が行われ、救命困難であり、看取りの方向で看護していく方針となり、原告X1が到着するまで、メイロンを投与しながらバイタルの安定を図ることとなった。同日午前7時頃に原告X1が到着した。
同日午前7時56分、Cは死亡した。
(甲A1の1p1,2,40,43,44)

(5) 帽状腱膜下血腫について
帽状腱膜下血腫は、帽状腱膜と骨膜と間に生じた出血で、吸引分娩で出生した児に多いとされている。帽状腱膜は頭部全体を覆っているので、出血による腫脹は、頭頂部から前頭部、側頭部まで、頭部全体に及ぶことが多く、頭部の皮膚は波動状で、その出血量は外見より多く、出血性ショックで気付かれることが多いとされている。出生直後は比較的元気で、生後数時間を経て徐々に出血性ショックに至るため、吸引分娩で出生した児では、頭部の波動状腫脹の有無、呼吸数、皮膚色、ヘマトクリットの注意深い観察が必要であるとされている。(甲B14)

2 争点(1)(11月21日午前0時25分頃の時点で、Z助産師がY医師に、顔面チアノーゼ、全身色不良、うなり呼吸を報告すべきであったか)について

(1) 前記認定のとおり、11月21日午前0時20分頃の時点で、Cに、顔面チアノーゼ、全身色不良、うなり呼吸が認められる状態であったところ、鑑定の結果によれば、上記の状態は、NICUがない施設における新生児搬送の適応であり、助産師がこれを医師に報告しなかったことは不適切であったとされている。すなわち、吸引分娩により出生した児は、一定時間十分な監視下に置き、帽状腱膜下血腫の有無などを注意深く観察することが必要であり(鑑定書p18)、Cは、滑脱1回を含む合計6回の吸引分娩により出生し(同p9)、頭血腫があったことから帽状腱膜下血腫の有無の確認が必要である(同p18)ところ、同日午前0時20分頃の時点のCの上記の状態は、同月20日午後10時02分頃の時点で認められた状態(四肢末端チアノーゼ及び四肢末端冷感)よりも症状が悪化していることから(鑑定書p17)、助産師は、午前0時20分頃に認められた顔面チアノ−ゼ、全身色不良、うなり呼吸について、医師に報告すべきであったとされている。この鑑定の結果は、「顔面チアノーゼ、全身色不良、うなり呼吸が認められた同日午前0時20分頃の時点で、上位機関に送ってしかるべき治療を受けないと助からない出血性ショックに陥っていた」旨の産科医の意見(甲B23p3,10、証人Bp38,39)及び「同日午前0時20分頃の時点ではすでに頭部所見、全身状態から帽状腱膜下血腫による出血性ショックの状態であったことは明らか」である旨の産科医の意見(甲B20p8)にも沿うものであり、上記鑑定の結果を覆すに足りる証拠はない。

(2) したがって、11月21日午前0時25分頃の時点で、Z助産師は、Y医師に、顔面チアノーゼ、全身色不良、うなり呼吸を報告すべきであったと認められる。
にもかかわらず、前記のとおり、Z助産師は、Y医師に対し、Cに、顔面チアノーゼ、全身色不良、うなり呼吸が認められることを報告しなかった。

3 争点(2)(本件吸引分娩は、吸引分娩の適応のないものであったか)について

(1) 本件ガイドラインにおいては、吸引・鉗子分娩は、実施前に、@胎児機能不全、A分娩第2期遷延や分娩第2期停止、B母体合併症(心疾患合併など)や母体疲労のため分娩第2期短縮が必要と判断された場合のいずれかの適応があることを確認することが勧められているところ(甲B1pXI,259)、原告らは、本件吸引分娩は、上記@〜Bのいずれも満たさないから、吸引分娩の適応を欠くものであった旨主張し、他方、被告は、本件ガイドラインにおける上記の点の推奨レベルはBであるから医師に法的な注意義務を課す基準とはならない旨を主張しつつ、本件吸引分娩については上記@〜Bを満たす上、原告X1は軟産道強靭症であり、この点でも吸引分娩の適応になる旨を主張する。

(2) この点、本件ガイドラインにおいては、「分娩第2期遷延の診断基準は、所要時間が初産婦で2時間以上、経産婦で1時間以上である。ただし、硬膜外麻酔等による無痛分娩中は各々3時間以上、2時間以上が1つの目安と考えられている。ただし、これらの時間を超えていなくても、児頭下降度などの点から分娩進行が認められない(分娩停止)か、あるいは進行が遷延して第2期遷延が予想される場合には、吸引・鉗子分娩が選択されることもある。」とされているところ(甲B1p260)、鑑定(補充鑑定を含む)の結果によれば、本件吸引分娩は、分娩第2期遷延が予想される状態を適応に吸引分娩が行われており、不適切とはいえないとされている(鑑定書p5)。すなわち、@本件においては、11月20日午後1時35分に児頭下降度−3、午後4時40分に児頭下降度−2、午後6時35分に産瘤+1、午後7時30分に産瘤+2、午後7時40分に産瘤のみ先進+2〜+3であり、これらを総合して評価すると、遅くとも午後6時35分以降は児頭下降度が不良であったと判断される(補充鑑定書p3)、A「初産婦における無痛分娩中の分娩第2期が3時間以上」は、我が国では、あくまで目安である。無痛分娩では分娩第2期が遷延しやすいが、子宮収縮薬が併用される場合には必ずしも分娩第2期が遷延するわけではない。本件ガイドラインが基礎としている米国産科婦人科学会による定義である「分娩第2期遷延は、硬膜外麻酔等による無痛分娩中は初産婦で3時間以上」は、子宮収縮薬を用いない自然分娩が前提となっている。したがって、子宮収縮薬が併用されていた本件では、「分娩第2期遷延が予想される状態」を、無痛分娩ではない通常の分娩と同様に、分娩第2期が2時間以上に及ぶ可能性がある場合と考えることもできる(補充鑑定書p4)、B本件吸引分娩をせずに自然経過観察を続けていた場合には、分娩第2期が2時間ないし3時間を超える可能性があり、この状況下で「分娩第2期遷延が予想される状態」と判断することは臨床現場ではあり得る、とされている(補充鑑定書p5)。
以上の鑑定の結果を覆すに足りる証拠はない。

(3) したがって、本件吸引分娩は、吸引分娩の適応を満たすものであったというべきであり、原告らの主張は採用することができない。

4 争点(3)(本件吸引分娩の方法は、不適切なものであったか)について

(1) 原告らは、本件吸引分娩の方法が、@児頭が嵌入していない状態で行われた点又はA5回を超えて吸引が行われた点においで、不適切であった旨を主張する。
     
(2)児頭が嵌入していない状態で行われたかについて

ア 本件ガイドラインにおいては、「吸引手技を実施する場合は以下を満たしていることを確認する。」とし、そのうちの1つとして、「児頭が嵌入している」を挙げ(甲B1p259)、「『児頭嵌入』は児頭がさらに下降しステーション0(坐骨棘の高さまで先進部が下降)に達した状態を指す」とされている(甲B1p260)。

イ 前記認定のとおり、11月20日午後7時40分頃の時点で児頭の産瘤が+2〜+3の状態であり、Y医師は、内診をした同日午後7時45分頃の時点で、恥骨結合の裏に内診指が入らず、膣口側から児髪が見えていたことから、産瘤があったとしても児頭のステーションは0〜+1又はそれよりも低い位置(+1〜+2)であると判断しているところ、鑑定の結果によれば、一般的に児頭の産瘤がステーション+2に到達している場合、児の頭蓋骨が嵌入レベル(ステーション0)に到達していることが多いとされ(鑑定書p11)、また、正常頭位分娩の内診所見として、恥骨結合後面の触知が「不触」の場合のステーションは「+3」とされていること(乙B2p277)に照らすと、同日午後7時45分頃の時点で児頭のステーションは0〜+1又はそれよりも低い位置であるとしたY医師の判断は不合理なものではなく、その時点の児頭の位置は少なくともステーション0に達していたと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はない。
よって、児頭が嵌入していない状態で吸引分娩が行われたとはいえない。

(3) 5回を超える吸引を行わない注意義務の違反があったかについて

ア 本件ガイドラインにおいては、「吸引分娩中に以下のいずれかになっても児が娩出しない場合は、鉗子分娩あるいは帝王切開術を行う」とし、そのうちの1つとして「総牽引回数(滑脱回数も含める)が5回」が挙げられている(甲B1p259)。
前記認定のとおり、Y医師は、ソフトカップで1回、その後ハードカップで5回の吸引を行っているところ、原告らは、5回を超える吸引を行わない注意義務の違反があった旨を主張する。

イ 本件ガイドラインにおいては、「吸引分娩を行った場合の総牽引の制限
時間や回数、滑脱の許容範囲についてのエビデンスは明確ではない。」としつつ、「十分な吸引にもかかわらず胎児下降が認められない場合、あるいは滑脱を繰り返す場合には吸引分娩に固執せず、鉗子適位なら鉗子分娩、または帝王切開に切り替えることを推奨した」としており、また、「児頭の下降があり5回以内で娩出可能と判断して継続した結果、吸引・鉗子分娩が5回を越えた場合には、施行時の状況について診療録へ詳細に記載する」とされていること(甲B1p262)からすると、本件ガイドラインは、吸引分娩の回数を必ず5回までとしなければならないとするものとはいえない。本件吸引分娩では、1回目はソフトカップでの吸引がかからず、滑脱したが、その後、ハードカップでの5回の吸引で娩出できており、総牽引時間は12分と適切な時間内であったこと(鑑定書p10)に照らすと、本件吸引分娩は、十分な吸引にもかかわらず胎児下降が認められない場合や滑脱を繰り返す場合であったとはいえないから、5回を超えることが直ちに不適切であるとはいい難い。鑑定の結果によれば、平成29年当時、事情や条件によっては、吸引分娩の回数が合計6回はやむを得ないとの認識であり、本件吸引分娩の回数は不適切とはいえないとされている(鑑定書p10)。
したがって、Y医師に、5回を超える吸引を行わない注意義務の違反があったとはいえない。

(4) 以上によれば、本件吸引分娩の方法は、不適切なものであったとはいえない。
                                        5 因果関係の有無(争点(4))について

(1) 鑑定(補充鑑定を含む)の結果によれば、11月21日午前0時25分の時点で、Cは、出血性ショック及びDICの前段階であり、この時点で、Y医師が、Z助産師から、顔面チアノーゼ、全身色不良、うなり呼吸の報告を受ければ、Cを診察して帽状腱膜下血腫を疑い、CをNICUのある高次施設へ搬送し、搬送先施設で高度な救命処置及び治療を受けることにより、Cを救命できた可能性が十分にあり得るとされている(鑑定書p27、補充鑑定書p7)。すなわち、帽状腱膜下血腫による新生児死亡率は一般的に15%前後とされていて必ずしも新生児死亡に至るわけではなく、高次施設で適切な対応がされれば救命できた可能性が十分にあり(補充鑑定書p7)、同月20日午後10時02分時点では、帽状腱膜下血腫は若干進行していたが、全身状態の悪化はまだ軽度であり、全身状態から出血性ショックを発症していた可能性は低く、発症していても軽度である可能性が高く、この時点で高次施設に搬送され、適切な加療が行われた場合の救命率は95%前後であったと予想されるとし、同月21日午前0時25分の時点で高次施設に搬送され、適切な加療が行われた場合の救命率は90%前後と予想されるとする(補充鑑定書p9)。また、本件吸引分娩により出生したCに同日午前0時20分の時点でチアノーゼや全身色不良が生じていることは、帽状腱膜下血腫等の合併症が生じていることを疑うに十分な所見である旨及び同時点のCの状態は、上位機関に送ってしかるべき治療を受けないと助からない出血性ショックに陥っていた状態であり、この時点で新生児搬送を行っておけば、健児を得ていた可能性が高い旨の産科医の意見(甲B23p3,4,10、証人Bp23,38,39)がある。これらによれば、同日午前0時25分の時点で、Z助産師がY医師に顔面チアノーゼ、全身色不良、うなり呼吸を報告していれば、Cが死亡しなかった高度の蓋然性があるというべきであり、これを覆すに足りる証拠はない。

(2) したがって、11月21日午前0時25分の時点でZ助産師がY医師に顔面チアノーゼ、全身色不良、うなり呼吸を報告しなかったこととCの死亡との間に因果関係があると認められる。

6 争点(5)(損害額)について

(1) Cの損害額
ア 治療費          4240円
証拠(甲C1、2、5、6)及び弁論の全趣旨によれば、CのDセンターでの治療費は500円、E病院での治療費は3740円であり、これら合計4240円は、賠償されるべき治療費額と認められる。
イ 入院雑費         1500円
E病院に入院した1日分の入院雑費は1500円と認めるのが相当である。
ウ 損害賠償請求関係費用   7580円
証拠(甲C3〜5、7、8)によれば、Dセンターのカルテ開示費用は20円、E病院の死亡診断書の文書料は3240円、CD−R2枚の文書料は4320円であり、これら合計7580円は、損害賠償請求関係費用として賠償されるべき損害額と認められる。
エ 葬儀費用     150万円
弁論の全趣旨によれば、Cの葬儀費用として150万円を賠償されるべき損害額と認めるのが相当である。
オ 逸失利益     2082万6805円
賠償されるべき逸失利益の額は、基礎収入額を551万7400円(平成29年賃金センサス男性・学歴計・全年齢)とし、就労可能年数を18歳から67歳までとし(67年の5%ライプニッツ係数19.2390から18年の5%ライプニッツ係数11.6895を控除すると、7.5495となる。)、生活費控除率を50%として算定し、次のとおり、2082万6805円と認めるのが相当である。
5,517,400円×7.5495×(1−0.5)=20,826,805円
カ 死亡慰謝料    2000万円
Cの死亡慰謝料は、2000万円をもって相当と認める。
(ア〜力の合計  4234万0125円)

(2) 原告らの相続
原告らは、Cの死亡により、上記(1)の損害賠償請求権を、法定相続分に従い、それぞれ2117万0062円(円未満切り捨て)ずつ相続した。

(3) 原告ら固有の慰謝料 各200万円
原告らはCの両親であるところ、Cの死亡による原告ら固有の慰謝料額は、各200万円と認めるのが相当である。

(4) 弁護士費用    各230万円          
本件事案の性質、審理の経過及び認容額等に照らすと、賠償されるべき弁護士費用損害額は、原告ら各自について230万円をもって相当と認める。
((2)〜(4)の合計  各2547万0062円)

7 結論

以上によれば、原告らの主位的請求は、原告ら各自2547万0062円及びこれに対する平成29年11月21日(不法行為の日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、予備的請求は理由がない。仮執行免脱宣言は、相当ではないからこれを付さないこととする。
よって、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第20民事部
裁判長裁判官 冨上 智子
   裁判官 長谷川利明
   裁判官 大西 康平
                   

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