最高裁医療判例real estate
最高裁医療判例
〇最判平14・ 9 ・24集民207号175頁
説明義務
「医師は,診療契約上の義務として,患者に対し診断結果,治療方針等の説明義務を負担する。そして,患者が末期的疾患にり患し余命が限られている旨の診断をした医師が患者本人にはその旨を告知すべきではないと判断した場合には,患者本人やその家族にとってのその診断結果の重大性に照らすと,当該医師は,診療契約に付随する義務として,少なくとも,患者の家族等のうち連絡が容易な者に対しては接触し,同人又は同人を介して更に接触できた家族等に対する告知の適否を検討し,告知が適当であると判断できたときには,その診断結果等を説明すべき義務を負うものといわなければならない。なぜならば,このようにして告知を受けた家族等の側では,医師側の治療方針を理解した上で,物心両面において患者の治療を支え,また,患者の余命がより安らかで充実したものとなるように家族等としてのできる限りの手厚い配慮をすることができることになり,適時の告知によって行われるであろうこのような家族等の協力と配慮は,患者本人にとって法的保護に値する利益であるというべきであるからである。
【要旨】これを本件についてみるに,Dの診察をしたF医師は,前記のとおり,一応はDの家族との接触を図るため,Dに対し,入院を1度勧め,家族を同伴しての来診を1度勧め,あるいはカルテに患者の家族に対する説明が必要である旨を記載したものの,カルテにおけるDの家族関係の記載を確認することや診察時に定期的に持参される保険証の内容を本件病院の受付担当者に確認させることなどによって判明するDの家族に容易に連絡を取ることができたにもかかわらず,その旨の措置を講ずることなどもせず,また,本件病院の他の医師らは,F医師の残したカルテの記載にもかかわらず,Dの家族等に対する告知の適否を検討するためにDの家族らに連絡を取るなどして接触しようとはしなかったものである。このようにして,本件病院の医師らは,Dの家族等と連絡を取らず,Dの家族等への告知の適否を検討しなかったものであるところ,被上告人B2及び同B4については告知を受けることにつき格別障害となるべき事情はなかったものであるから,本件病院の医師らは,連絡の容易な家族として,又は連絡の容易な家族を介して,少なくとも同被上告人らと接触し,同被上告人らに対する告知の適否を検討すれば,同被上告人らが告知に適する者であることが判断でき,同被上告人らに対してDの病状等について告知することができたものということができる。そうすると,本件病院の医師らの上記のような対応は,余命が限られていると診断された末期がんにり患している患者に対するものとして不十分なものであり,同医師らには,患者の家族等と連絡を取るなどして接触を図り,告知するに適した家族等に対して患者の病状等を告知すべき義務の違反があったといわざるを得ない。その結果,被上告人らは,平成3年3月19日にE大学医学部附属病院における告知がされるまでの間,Dが末期がんにり患していることを知り得なかったために,Dがその希望に沿った生活を送れるようにし,また,被上告人らがより多くの時間をDと過ごすなど,同人の余命がより充実したものとなるようにできる限りの手厚い配慮をすることができなかったものであり,Dは,上告人に対して慰謝料請求権を有するものということができる。」
谷直樹法律事務所
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