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最高裁医療判例real estate

最高裁医療判例
〇最判平15・11・14集民211号633頁

手術の際に経鼻気管内挿管がされた管を手術後に抜管された直後に,気道閉そくから呼吸停止,心停止の状態となり,命は取り留めたものの,いわゆる植物状態となり,その後,食道がんにより死亡した。

(1) 本件手術は,食道の全摘術であり,その手術内容からすると,術後のこう頭周囲の浮しゅの状態は,かなり高度のものであったと推測されるのであり,現に,壬医師は,平成6年12月18日午前10時50分ころに前記抜管をした後,こう頭鏡により辛のこう頭の状態を観察し,こう頭浮しゅ(++)の存在を確認している。(2) 前記抜管の約5分後(午前10時55分ころ)には,辛の吸気困難な状態が高度になったことを示す胸くうドレーンの逆流が生じており,また,そのころ,辛には,軽度の呼吸困難の訴えや努力性呼吸がみられた上,上気道の狭さくを示すしわがれ声による発声もあったなど,辛のこう頭浮しゅの状態が相当程度進行しており,既に呼吸が相当困難な状態にあって,これが更に進行すれば,上気道狭さくから閉そくに至ることをうかがわせるのに十分な兆候があった。(3) 辛が呼吸停止,心停止に至った原因は,進行性のこう頭浮しゅにより上気道狭さくから閉そくを起こしたものと推測されるが,前記の医学的知見によれば,本件手術のような食道がん根治術の場合,気管内に挿入された管の抜管後に,このような上気道の閉そく等が発生する危険性が高いとされており,抜管後においては,患者の呼吸状態を十分に観察して再挿管等の気道確保の処置に備える必要があり,特に抜管後1時間は要注意であるとされている。

【要旨】上記の諸点に照らすと,壬医師は,抜管後,辛の吸気困難な状態が高度になったことを示す胸くうドレーンの逆流が生じた上記時点(前同日午前10時55分ころ)において,辛のこう頭浮しゅの状態が相当程度進行しており,既に呼吸が相当困難な状態にあることを認識することが可能であり,これが更に進行すれば,上気道狭さくから閉そくに至り,呼吸停止,ひいては心停止に至ることも十分予測することができたものとみるべきであるから,壬医師には,その時点で,再挿管等の気道確保のための適切な処置を採るべき注意義務があり,これを怠った過失があるというべきである。

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