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最高裁医療判例real estate

最高裁医療判例
〇最判平16・ 9 ・7判夕1169号158頁

アナフィラキシーショック事件
「Y2が,薬物等にアレルギー反応を起こしやすい体質である旨の申告をしている乙に対し,アナフィラキシーショック症状を引き起こす可能性のある本件各薬剤を新たに投与するに際しては,Y2には,その発症の可能性があることを予見し,その発症に備えて,あらかじめ,担当の看護婦に対し,投与後の経過観察を十分に行うこと等の指示をするほか,発症後における迅速かつ的確な救急処置を執り得るような医療態勢に関する指示,連絡をしておくべき注意義務があ」るとした。

(1) 本件各薬剤は,いずれもアナフィラキシーショック発症の原因物質となり得るものであり,本件各薬剤の各能書きには,使用上の注意事項として,そのことが明記されており,抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者や,気管支ぜん息,発しん,じんましん等のアレルギー反応を起こしやすい体質を有する患者には,特に慎重に投与すること,投与後の経過観察を十分に行い,一定の症状が現れた場合には投与を中止して,適切な処置を執るべきことが記載されている。(2) 乙は,受診の際に提出した前記申告書面及びY2による問診において,薬物等にアレルギー反応を起こしやすい体質である旨の申告をしており,Y2は,その申告内容を認識していながら,乙に対し,その申告に係る薬物アレルギーの具体的内容,その詳細を尋ねることはしなかった。(3) 本件手術後,乙に対しては,抗生剤が継続的に投与されてはいたが,本件のアナフィラキシーショック発症の原因となった前記点滴静注において投与された本件各薬剤のうち,ミノマイシンは初めて投与されたものであり,ペントシリンは2度目の投与であった。(4) 医学的知見によれば,薬剤が静注により投与された場合に起きるアナフィラキシーショックは,ほとんどの場合,投与後5分以内に発症するものとされており,その病変の進行が急速であることから,アナフィラキシーショック症状を引き起こす可能性のある薬剤を投与する場合には,投与後の経過観察を十分に行い,その初期症状をいち早く察知することが肝要であり,発症した場合には,薬剤の投与を直ちに中止するとともに,できるだけ早期に救急治療を行うことが重要であるとされている。特に,アレルギー性疾患を有する患者の場合には,薬剤の投与によるアナフィラキシーショックの発症率が高いことから,格別の注意を払うことが必要とされている。(5) しかるに,Y2は,本件各薬剤を乙に投与するに当たり,担当の看護婦に対し,投与後の経過観察を十分に行うようにとの指示をしておらず,アナフィラキシーショックが発症した場合に迅速かつ的確な救急処置を執り得るような医療態勢に関する指示,連絡もしていなかった。そのため,本件各薬剤の点滴静注を行った丙看護婦は,点滴静注開始後,乙の経過観察を行わないで,すぐに病室から退出してしまい,その結果,アナフィラキシーショック発症後,相当の間,本件薬剤の投与が継続されることとなったほか,当直医による心臓マッサージが開始されたのは発症後10分以上が経過した後であり,気管内挿管が試みられたのは発症後20分以上が経過した後,アドレナリンが投与されたのは発症から約40分が経過した後であった。

 【要旨】以上の諸点に照らすと,Y2が,薬物等にアレルギー反応を起こしやすい体質である旨の申告をしている乙に対し,アナフィラキシーショック症状を引き起こす可能性のある本件各薬剤を新たに投与するに際しては,Y2には,その発症の可能性があることを予見し,その発症に備えて,あらかじめ,担当の看護婦に対し,投与後の経過観察を十分に行うこと等の指示をするほか,発症後における迅速かつ的確な救急処置を執り得るような医療態勢に関する指示,連絡をしておくべき注意義務があり,Y2が,このような指示を何らしないで,本件各薬剤の投与を担当看護婦に指示したことにつき,上記注意義務を怠った過失があるというべきである。

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