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最高裁医療判例real estate

最高裁医療判例
〇最判平成21・3・27 集民230号285頁

立証責任を事実上転換した事例

本件病院の担当医師らは,手術創の縫合や気管内挿管等を先行させたことによって時間を費やした結果,心停止後早急に開始すべき心臓マッサージを心停止から5分以上経過して開始しており,心停止後直ちに心臓マッサージを開始しなかったことも,過失と評価することができる。
本件手術における麻酔担当医であるC医師は,プロポフォールと塩酸メピバカインを併用する場合には,プロポフォールの投与速度を通常よりも緩やかなものとし,塩酸メピバカインの投与量を通常よりも少なくするなどの投与量の調整をしなければ,65歳という年齢のAにとっては,プロポフォールや塩酸メピバカインの作用が強すぎて,血圧低下,心停止,死亡という機序をたどる可能性が十分にあることを予見し得たものというべきであり,そのような機序をたどらないように投与量の調整をすべき義務があったというべきである。

ところが,前記事実関係によれば,C医師は,全身麻酔により就眠を得たAに対し,2%塩酸メピバカイン注射液をその能書に記載された成人に対する通常の用量の最高限度である20ml投与した上,プロポフォールを,通常,成人において適切な麻酔深度が得られるとされる投与速度に相当する7.5mg/kg/時の速度で,午後1時35分から午後2時15分過ぎまで40分以上の間持続投与し,その間,Aの血圧が硬膜外麻酔の効果が高まるに伴って低下し,執刀が開始された午後1時55分以降は少量の昇圧剤では血圧が回復しない状態となっていたにもかかわらず,投与速度を減じず,その速度が能書に記載された成人に対する通常の使用例を超えるものとなっていた,というのである。そして,その結果,午後2時15分過ぎにAの血圧が急激に低下する事態となり,それに引き続いて心停止,さらに死亡という機序をたどったというのであるから,C医師には,Aの死亡という結果を避けるためにプロポフォールと塩酸メピバカインの投与量を調整すべきであったのにこれを怠った過失があり,この過失とAの死亡との間には相当因果関係があるというべきである。本件において,C医師がプロポフォールと塩酸メピバカインの投与量を適切に調整したとしてもAの死亡という結果を避けられなかったというような事情はうかがわれないのであるから,プロポフォールと塩酸メピバカインの投与量をどの程度減らすかについてC医師の裁量にゆだねられる部分があったとしても,そのことが上記結論を左右するものではない。
原審は,塩酸メピバカインの投与量を減らしたとしても,その程度は麻酔担当医の裁量に属するものであり,その減量により本件心停止及び死亡の結果を回避することができたといえる資料もないから,死亡と因果関係を有する過失の具体的内容を確定することはできないとするけれども,上記のように,本件の個別事情に即した薬量の配慮をせずに高度の麻酔効果を発生させ,これにより心停止が生じ,死亡の原因となったことが確定できる以上,これをもって,死亡の原因となった過失であるとするに不足はない。塩酸メピバカインをいかなる程度減量すれば心停止及び死亡の結果を回避することができたといえるかが確定できないとしても,単にそのことをもって,死亡の原因となった過失がないとすることはできない。

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