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最高裁医療判例real estate

最高裁医療判例
〇最判平7・5・30集民175号319頁

核黄疸事件 退院時の説明義務

本件において上告人A3を同月三〇日の時点で退院させることが相当でなかったとは直ちにいい難いとしても、産婦人科の専門医である被上告人としては、退院させることによって自らは上告人A3の黄疸を観察することができなくなるのであるから、上告人A3を退院させるに当たって、これを看護する上告人A2らに対し、黄疸が増強することがあり得ること、及び黄疸が増強して哺乳力の減退などの症状が現れたときは重篤な疾患に至る危険があることを説明し、黄疸症状を含む全身状態の観察に注意を払い、黄疸の増強や哺乳力の減退などの症状が現れたときは速やかに医師の診察を受けるよう指導すべき注意義務を負っていたというべきところ、被上告人は、上告人A3の黄疸について特段の言及もしないまま、何か変わったことがあれば医師の診察を受けるようにとの一般的な注意を与えたのみで退院させているのであって、かかる被上告人の措置は、不適切なものであったというほかはない。被上告人は、上告人A3の黄疸を案じていた上告人A2らに対し、上告人A3には血液型不適合はなく黄疸が遷延するのは未熟児だからであり心配はない旨の説明をしているが、これによって上告人A2らが上告人A3の黄疸を楽観視したことは容易に推測されるところであり、本件において、上告人A2らが退院後上告人A3の黄疸を案じながらも病院に連れて行くのが遅れたのは被上告人の説明を信頼したからにほかならない(記録によれば、上告人A2は、一〇月八日上告人A3をG病院に連れて行くに際し、上告人A1が上告人A3に黄疸の症状があるのは未熟児だからであり心配いらないとの被上告人の言を信じ切って同行しなかったため、知人のIに同伴してもらったが、同病院のH医師から上告人A3が重篤な状態にあり、直ちに交換輪血が必要である旨を告げられて驚愕し、Iを通じて上告人A1に電話したが、急を聞いて駆けつけた同上告人は、H医師から直接話を聞きながら、なお、その事態が信じられず、H医師にも告げた上で、被上告人に電話したが、被上告人の見解は依然として変わらず、上告人A1との間に種々の問答が交わされた挙句、H医師の手で上告人A3のため交換輸血が行われた経緯が窺われるのである)。
  
そして、このような経過に照らせば、退院時における被上告人の適切な説明、指導がなかったことが上告人A2らの認識、判断を誤らせ、結果として受診の時期を遅らせて交換輸血の時機を失わせたものというべきである。

したがって、被上告人の退院時の措置に過失がなかったとした原審の判断は、是認し難いものといわざるを得ない。そして、被上告人の退院時の措置に過失があるとすれば、他に特段の事情のない限り、右措置の不適切と上告人A3の核黄疸罹患との間には相当因果関係が肯定されるべきこととなる筋合いである。原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものといわざるを得ず、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

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