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最高裁医療判例real estate

最高裁医療判例
〇最判平9・2・25民集51巻2号502頁

鑑定 開業医の役割 転医義務

本件鑑定は、Dの病状のすべてを合理的に説明し得ているものではなく、経験科学に属する医学の分野における一つの仮説を述べたにとどまり、医学研究の見地からはともかく、訴訟上の証明の見地からみれば起因剤及び発症日を認定する際の決定的な証拠資料ということはできない。そうすると、本件鑑定のみに依拠して、ネオマイゾンが唯一単独の起因剤であり、Dの本症発症日を四月一三日から一四日朝とした原審認定は、経験則に違反したものというべきである。

開業医の役割は、風邪などの比較的軽度の病気の治療に当たるとともに、患者に重大な病気の可能性がある場合には高度な医療を施すことのできる診療機関に転医させることにあるのであって、開業医が、長期間にわたり毎日のように通院してきているのに病状が回復せずかえって悪化さえみられるような患者について右診療機関に転医させるべき疑いのある症候を見落とすということは、その職務上の使命の遂行に著しく欠けるところがあるものというべきである。

開業医が本症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者について薬疹の可能性のある発疹を認めた場合においては、自院又は他の診療機関において患者が必要な検査、治療を速やかに受けることができるように相応の配慮をすべき義務があるというべきであり、Dの発疹が薬疹によるものである可能性は否定できず、本症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与されたものである以上はネオマイゾンによる中毒性機序のみを注意義務の判断の前提とすることも適当でないから、原審の確定した事実関係によっても、同被上告人に本症発症を予見し、投薬を中止し、血液検査をすべき注意義務がないと速断した原審の右判断には、診療契約上の注意義務に関する法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。

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