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下級審医療判例real estate

東京地判平16.2.2
                    主     文
1 被告らは,連帯して,原告Aに対し2607万6907円,原告Bに対し1303万8453円及びこれらに対する平成9年11月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告らの負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
                    事実及び理由
(略)
第6 当裁判所の判断
1 争点1について
(1) ペースメーカーの適応及び症候性徐脈の有無
ア 10月17日時点におけるCの完全房室ブロックにつきペースメーカー植込み手術の適応があったこと自体は当事者間に争いがないものの,Cの完全房室ブロックが徐脈による症状を伴うものであったか否かという点については主張が異なっており,そのため,Cの完全房室ブロックが後述する絶対適応・相対適応のいずれに該当するかについても主張が異なっている。
 これらの点は,徐脈による症状の有無及びその程度に関する事実であり,ペースメーカー植込み手術等の治療行為が緊急になされるべきであったか否かの判断にも影響を及ぼすものであるから,Cの完全房室ブロックにつき,徐脈による症状の有無,ペースメーカー植込み手術の絶対適応・相対適応のいずれに該当するかについて,まず検討する。
イ ペースメーカーの適応基準(甲B16,乙B4によって認める。)
 ペースメーカーの適応については,米国において,American College of Cardiology及びAmerican Heart Association(ACC/AHA)の特別合同委員会がガイドラインを作成しており,これを参考として,日本心臓ぺーシング学会ペースメーカー植込み適応に関する小委員会が,平成7年にガイドラインを公表している。
 ガイドラインは,「医学的適応決定にあたっては,症状および徐脈と症状の因果関係(すなわち症候性徐脈)が重要である。症状としては,一過性脳虚血による失神,失神感(near syncope),ふらふら感,めまい,および著名な運動耐容能の低下や心不全症状があげられ,それらが徐脈によるものと確認された場合が“症候性徐脈”としてペースメーカー適応の有無を判断する根拠となる。」としている。そして,適応があると一般に容認されているもの(絶対適応)をclassT,適応はあるが異論のあるもの(相対適応)をclassU,適応なしとされているものをclassVとして,適応基準を三段階に分けている。
 成人における後天性房室ブロックのペースメーカー植込み適応についてガイドラインが定めている基準は,別紙2(乙B4文献1表1)のとおりであり,完全房室ブロックで症候性除脈(症状が除脈によるものであることが証明されているもの)を伴うものはclassT(絶対適応)に分類している。
ウ 徐脈性不整脈
 徐脈性不整脈とは,心拍数が毎分60回未満の場合を指すところ(甲B7),Cの心拍数は,5月20日が毎分40ないし43回,10月16日が毎分45回,同月17日が毎分44回であるから,遅くとも5月20日以降,Cに徐脈性不整脈がみられたことは明らかである。
 そして,Cは,5月20日時点では,L病院において2枝ブロックと診断されていたが,10月16日,15日の症状が現れたことから同病院を受診したところ,完全房室ブロックと診断されており,また,被告Eが診察した同月17日にも完全房室ブロックと診断されたことからすれば,遅くとも15日の症状が現れた時点では,Cは徐脈性不整脈の一種である完全房室ブロックの状態になっていたと推認できる。
 そこで,次項において,15日の症状が徐脈性不整脈によるもの(症候性徐脈)といえるか否かについて検討する。
エ 症候性徐脈の有無
(ア) 乙A第3号証によれば,10月31日,Cは,被告病院の看護師に対し,「10月16日が初めてだったんですが,動いた後冷や汗が出てきて,少しぼーっとして,私ばかになったのかと思ってたんですよ」と話したと認められる。
 また,甲A第1号証及び原告A本人尋問の結果によれば,同月15日,Cは,原告Aに対し,「午後,近所のスーパーマーケットへ歩いて買い物に行き,帰途,自宅近くまで戻ったところで,冷や汗が出て頭がボーっとなった。一瞬,私は頭がバカになったのかと思った。普通に歩くことができなくて,ゆっくりゆっくり歩いて,やっと家に帰った。最近ときどき目の前が真っ白になることがある。だけど今日みたいな事は初めて。」という趣旨の話をしたと認められる。
 このようなCの言動を考えると,15日の症状は,それ以前に経験していためまい等の症状よりも程度が重いものであり,Cにとって,初めて生じたものであったと認められる。
 しかして,10月15日ころにCが徐脈性不整脈の一種である完全房室ブロックの状態であったことは上記ウのとおりであるから,他に15日の症状の原因となるべき特段の要因が認められない限り,15日の症状は徐脈性不整脈によるものと推認することができる。
(イ) 上記特段の要因について
a 被告らは,15日の症状が高血圧によって生じた可能性があると主張する。
 確かに,証拠(乙A1,4)によれば,Cは,平成7年5月18日以降,L病院において降圧剤の処方等,高血圧症に対する診療を受けており,平成9年5月6日から同年10月31日までの血圧は下記のとおりであったと認められる(なお,単位はいずれもmmHgである。)から,同年10月15日当時もCは高血圧症だったと推認される。
              記
5月6日       最大血圧156,最小血圧88
7月3日       最大血圧160,最小血圧90
同月31日      最大血圧168,最小血圧88
同年9月4日     最大血圧144,最小血圧90
同年10月17日   最大血圧170,最小血圧80
同月31日      最大血圧146,最小血圧64
 しかし,高血圧症に対しては,平成7年以降,継続的に降圧剤の処方等の治療がされており(乙A4,弁論の全趣旨),それにもかかわらず,15日の症状の様なめまい等の症状は,平成9年10月15日に初めて生じたものである。300メートル程度の距離にあるスーパーマーケットへ歩いて買い物に行くという行動は,日常生活で通常行われる行動の範囲内であることからすると,従前は見られなかった高血圧による症状が同日突然に現れたとは考え難い。そして,同日ころにCの高血圧症が急激に悪化したなどの事情も認められないことも考えると,15日の症状が高血圧によって生じた可能性は小さく,上記推認を覆すには足りない。
b また,被告らは,15日の症状は,運動時における低心拍出量状態に基づく症状であり,安静時及び軽作業時には正常状態に戻る症状であるから,徐脈による症状ということはできないと主張する。
 しかし,歩いて買い物に行くという行動は,身体に殊更大きな負担をかける運動であるとはいえない。また,証拠(甲A1,原告A本人)によれば,Cは,15日の症状を感じた後も,自宅内や被告病院に向かうタクシー内などで,原告Aに息苦しさを訴え,冷や汗をかくなど,低心拍出量状態が継続していたことが窺われる。
 したがって,運動をしたことによる低心拍出量状態により15日の症状が現れたとはいえないから,被告らの主張は採用しない。
c そして,L病院及び被告病院における診療経過を通じ,心不全の症状は認められておらず,本件証拠上,他に,15日の症状をもたらす要因となり得る事情は認められない。
 なお,10月17日の診察において,被告Eは,Cについて,ペースメーカー植込み手術の適応があると判断した上,15日の症状は徐脈によるものであるという趣旨の説明をしているが,これは,被告Eが,同日時点において,15日の症状が徐脈による蓋然性があると判断していたためである(被告E)。
(ウ) よって,15日の症状は徐脈性不整脈による症状であったと推認することができる。
 なお,Cが10月16日にL病院を受診したのは,15日の症状が現れたためであり,かかる症状はCにとって初めての症状であったこと,5月には2枝ブロックであったCの症状が,10月16日には完全房室ブロックになっていたことからすれば,Cが徐脈性不整脈のうち完全房室ブロックになった時期は同月15日ころであると推認できる。
オ 以上より,10月17日時点において,Cは,完全房室ブロックであって症候性徐脈を伴う状態にあり,ペースメーカー植込み手術の絶対適応に該当する状態であったといえる。
(2) 除脈性不整脈(完全房室ブロック)に対する治療方法について
ア 原告らは,Cの除脈性不整脈に対して,ペースメーカーの植込み,一時的ペースメーカーによるぺーシング及び薬剤投与といった治療行為が,初診後速やかになされるべきであったと主張する。この主張が認められるためには,初診時において,これらの治療行為の適応が認められるのみならず,速やかに治療を開始すべき緊急性が認められる必要がある。
 本件では,Cにペースメーカー植込みの適応が認められることは当事者間に争いがないから,ペースメーカー植込み手術については,その緊急性の有無が,一時的ペースメーカーの使用及び薬剤投与については,その適応及び緊急性の有無がそれぞれ問題となる。
イ 徐脈性不整脈に対するぺーシングは,徐脈による血行動態の破綻の解除,心拍依存性の不整脈原性の改善,臨床症状の改善を主目的とするものであり(甲B30),このような治療目的を速やかに達成する緊急性が認められる場合には,徐脈性不整脈に対する治療が緊急に必要とされているものといえる。
 また,一般に,徐脈性不整脈に対する治療が緊急に必要とされる場合には,ペースメーカー植込みの適応が認められるのみならず,その植込みがなされるまでの間,暫定的に一時的ペースメーカーが用いられ,また,緊急性が高く一時的ペースメーカーの挿入前に処置を行う必要性が認められる場合等には,抗不整脈剤の投与が行われている(甲B24,26,27,30)。
 したがって,徐脈性不整脈(完全房室ブロック)に対する治療が緊急に必要とされる場合には,上記治療行為のいずれについても適応が認められるのみならず,医師は直ちに上記治療行為のうちいずれかを開始する必要があるというべきである。
 なお,被告らは,一時的ペースメーカーの適応基準について,アダムス・ストークス発作が頻発する場合等を挙げているところ,この基準が,一時的ペースメーカーを使用する場合を,完全房室ブロックに対する治療を開始すべき緊急性が認められる場合よりも狭い範囲に限定する趣旨であるのか否かは判然としない。しかし,いずれにせよ被告ら主張の適応基準が一般的であると認めるに足りる証拠はないから,被告らの主張は採用しない。
(3) 緊急性の判断要素
 原告らは,徐脈による症状があれば治療を行う緊急性も認められると主張し,他方,被告らは,頻回にアダムス・ストークス発作による失神発作を繰り返していない以上,緊急性は認められないと主張する。そこで,緊急性の判断要素について検討する。
ア 証拠(甲B5,7,8,16,17,21,28,29,証人I)によれば,ガイドラインを始め,徐脈性不整脈の診察にあたっては,アダムス・ストークス症候群の有無ではなく,徐脈による症状を重視するのが一般的であるところ,徐脈性不整脈に対する治療を速やかに開始すべき緊急性についても,アダムス・ストークス症候群の有無のみが基準とされているわけではなく,同症候群に代表される徐脈に基づく症状を重視して,当該症状の示す重篤さの程度や頻度,その後の経過を考慮した上,その他の臨床上,検査上の所見を勘案して判断がされており,徐脈による症状が最近又は現在の失神発作として現れた場合はもとより,強いめまいが生じた場合など,これに準じる程度の症状であっても,速やかに治療を開始すべき緊急性が認められると解されていることが認められる。
イ 被告らは,頻回に失神発作を繰り返す場合等がアダムス・ストークス症候群に該当し,このような場合にのみ速やかに治療を開始すべき緊急性が認められると主張する。
 しかし,アダムス・ストークス症候群とは,「脈拍の結滞,めまい,失神,痙攣,ときにはCheyne−Stokes呼吸が特徴の症候群で,通常,高度房室ブロックまたは洞不全症候群の結果起こる」ものとされており(甲B19),同症候群を被告ら主張のように狭義に解する見解が一般的であることを認めるに足りる証拠はない。かえって,アダムス・ストークス症候群の概念は,その外延が不明確なため,現在の臨床上は用いられる頻度が少なくなってきている概念であることが認められる(甲B29,証人I)から,当裁判所は,本件における緊急性を判断するに際しては,同症候群の有無を判断基準とする見解を採用しない。
(4) Cの症状について
ア(ア) 10月17日におけるCの症状が,完全房室ブロックであり,かつ症候性徐脈に該当することは,前述したとおりであり,証拠(甲B16,17,28,29,証人I)によれば,この時点で調律が心室の部位でなされる心室固有調律の状態になっていたと認められる。
 ガイドライン上,ペースメーカー植込み手術の絶対適応にあることは,直ちに治療を開始すべき緊急性があることまで意味するものではないが,その手術適応に異論がなく,類型的にペースメーカー植込みを必要とする程度が高い状態にあるものといえる。
 しかして,完全房室ブロックは,それ自体で心室細動等の致死的な不整脈に移行し得る状態とされている(甲B22)ところ,心室固有調律の状態にまで至っていたCの症状は完全房室ブロックの中でも重篤な状態であった(甲B16,17,28,29,証人I)上,15日の症状にみられるめまいは失神の不全症状として現れるものである(甲B5)から,10月17日時点において,Cは,徐脈による失神発作を起こす状態に準じる程度の重篤な状態にあったというべきである。
(イ) また,Cが完全房室ブロックとなった時期が10月15日ころと推認されることは前述のとおりである。
 そうすると,Cは,被告Eが診察した同月17日時点では,徐脈による症状が急激に発症した直後であったのであり,徐脈の状態で日常生活を送った実績がなく,今後状態が悪化していく可能性があったのであるから,この観点からも早急な治療が必要とされていたといえる。
(ウ) なお,被告らは,10月17日の診察時においてCが歩行していたことを挙げて,Cの徐脈が重篤な状態ではなかったと主張するが,徐脈による症状は一過性のものであることも多く,緊急性の判断の上では,このような症状が現れたという事実の有無が重要なのである(甲B29,証人I)から,被告らの主張は採用しない。
イ 10月17日の心電図検査において,頻回の心室性期外収縮が指摘されていることは,前述したとおりであるが,これに証拠(甲B16,17,28,29,証人I)を併せると,Cの
心室性期外収縮は,頻回にみられるだけでなく,QRS波の型が一定ではなく,複数の原因によって生じる多源性の期外収縮であったといえる。
 頻回性又は多源性の心室性期外収縮は,心室細動等の致死的な不整脈に移行する危険性が指摘される症状であるが(甲B23),かかる期外収縮が完全房室ブロックと併存していることは,完全房室ブロックから致死的な不整脈に移行する危険性を現実化させる要因ともなるといえる。
ウ 修正QT間隔は0.44以下が正常範囲である(甲B5)ところ,10月17日の心電図検査では,修正QT間隔が0.494であり,QT間隔が延長していた。
 そして,QT間隔が延長している状態は,心室の受攻期が長くなることで心室細動等に移行しやすくなる状態とされており,完全房室ブロック及び心室性期外収縮が有する致死的な不整脈に移行する危険性を大きくする要因といえる(甲B17,32,証人I)。
 被告らは,QRS幅は脚ブロックに伴って延長したにすぎないと主張するが,その結果として生じたQT間隔の延長が致死的な不整脈に移行する危険性を増大せしめる要因となることは否定できない。
エ なお,被告らは,一時的ペースメーカーの使用の必要性について,合併症を生じるおそれがあることから,必要性はなかったと主張するが,被告らの主張する合併症は,一時的ペースメーカーのカテーテルを体内に挿入することにより生じ得る一般的な症状である上,一般的に一時的ペースメーカーによる合併症は少ないとされており(甲B30),Cが易感染状態であったなどの特段の事情の認められない本件においては,かかる抽象的な合併症のおそれをもって一時的ペースメーカー使用の必要性を否定することはできない。
オ このように,10月17日のCの症状は,15日の症状という最近生じた徐脈による症状を呈していたのみならず,完全房室ブロックから心室細動等の致死的な不整脈への移行を容易にする複数の要因が併存していたのであって,徐脈による症状を解除するとともに,致死的な不整脈に移行しやすい状態を改善する治療が早急に必要とされていたというべきであり,失神や強いめまいを生じた症例に準ずる程度に,速やかに治療を開始すべき緊急性のある状態であったといえる。
(5) 被告Eの過失
 したがって,被告Eは,Cに対し,10月17日の初診後,ペースメーカーの植込みを速やかに行うべきであり,仮にペースメーカー植込み手術を速やかに行わない(行うことができない事情がある)場合には,これを行うまでの間の暫定的措置として一時的ペースメーカーの使用又は薬剤投与による治療を開始すべきであったといえる。そして,前記前提事実3(2)に弁論の全趣旨を併せると,被告病院においては,11月4日以前にペースメーカー植込み手術を施行することが可能であったし,手術施行までの間,一時的ペースメーカーの使用又は薬剤投与による治療を行うことにも何ら障害はなかったと認められる。
 しかるに,被告Eは,手術予定日を初診日から17日後である11月4日とし,11月3
日までCの完全房室ブロックに対して上記のいずれの処置もとらなかったのであり,この点において被告Eに過失(診療上の注意義務違反)があるというべきである。
(6) 因果関係
 完全房室ブロックが心室細動に移行する危険性を有する症状であることは前述したとおりであるが,Cの完全房室ブロックが徐脈による症状を呈する状態にまで至っていたこと,他方で,Cの心室性期外収縮がそれ自体で緊急の治療を要する程度に至っていたとまで認めるに足りる証拠はなく,他に,Cが心室細動の要因となる心疾患に罹患していたとは認められないことを併せ考えると,11月3日に生じた心室細動は,完全房室ブロッ
クに起因するものと推認することができる。
 また,証拠(甲B16,17,28,29,証人I)によれば,Cについて,10月17日の初診後,速やかにペースメーカーの植込み又は一時的ペースメーカーの使用若しくは薬剤投与が行われていれば,その心室細動の発症を予防することができたと認められる。
 そして,Cは,心室細動により脳梗塞及び脳浮腫を引き起こし,その合併症として発症した肺炎により死亡したのであるから,被告Eの過失とCの死亡との間には因果関係が認められる。
2 被告らの責任について
 以上の次第で,被告Eは,Cの死亡について,過失による不法行為責任を負い,その死亡による損害を賠償すべき義務があるというべきであるし,また,被告Eによる上記不法行為は被告大学の被用者として行った診療行為の一環としてなされたものであるから,被告大学は,上記損害につき,民法715条により使用者責任を負う。
3 争点4(損害)
(1) 逸失利益
 Cは,10月17日当時55歳であったから,55歳から67歳に達するまでの12年間,平成13年賃金センサス産業計,企業規模計,学歴計,女性労働者の全年齢平均の給与年額352万2400円の収入を得られたものとし,生活費控除割合を30パーセントとして,年5パーセントの中間利息を控除するライプニッツ式計算法により,Cの逸失利益の現価を算出すると,2185万3814円となる。
(計算式)352万2400円×(1−0.3)×8.8632=2185万3814円(1円未満の端数は切り捨て)
(2) 慰謝料
 本件不法行為によってCが被った精神的苦痛を慰謝すべき慰謝料は,本件に顕れた諸般の事情を考慮して,2400万円と認めるのが相当である。
(3) 葬儀費用
 本件不法行為と相当因果関係のある葬儀費用損害金は,150万円をもって相当と認める。
(4) 上記(1)ないし(3)の合計額は,4735万3814円である。
(5) 前記前提事実1(1)によれば,上記損害賠償請求権については,Cの死亡による相続により,原告Aがその2分の1に相当する2367万6907円分を,原告Bがその4分の1に相当する1183万8453円分をそれぞれ取得したものといえる。
(6) 弁護士費用
 本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用損害金は,本件訴訟の難易,請求認容額等に鑑みて,原告Aにつき240万円,原告Bにつき120万円をもって相当と認める。
(7) 以上より,本件不法行為に基づく損害賠償請求権の額は,原告Aにつき2607万6907円,原告Bにつき1303万8453円となる。
 なお,債務不履行に基づく損害賠償請求権についてみても,その額は上記額を超えるものではない。
4 結論
 よって,原告らの請求は,被告らに対し,原告Aが2607万6907円,原告Bが1303万8453円,及びこれらに対する平成9年11月11日(Cが死亡した日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

            東京地方裁判所民事第14部
                   裁判長裁判官   貝 阿 彌   誠            
                      裁判官   大 嶋  洋 志            
                      裁判官    田  公 輝

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